【番外編】

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 領主を殺したのが『星石』の呪いだという話があっという間に広まったという。圧政に苦しめられてきた人々は、星石の到来をむしろ吉祥(きちじょう)と尊び、わざわざ新たに神社を建立して(まつ)ったのだ。その祈りの力で、星石の呪いの力は一旦深く封じられ、土地を立て続けに襲った災いも自然と治まったそうだ。 「まんまと土地神に祭り上げられた俺は、この土地を離れるわけにいかなくなったのさ」  はめられた、と明松は言いながら、その割には嬉しそうな顔で、手を伸ばしてジンの眉間を撫でる。ジンがうるさそうに、耳をぱたぱたと動かす。  愛らしい仕草に、ふと、胸が詰まった。 「ジンは……その甚右衛門さんに、想いを告げることができたのかな」  明松に覚悟の頼みごとをしてまで守りたかった相手と、ジンは心を通じ合わせることができたのだろうか。  いずれにせよ、ジンはとうの昔に甚右衛門とは死に別れているはずである。  それでもずっと、この鳴らない鈴を首に下げているのだ。もう帰ってこない人を想い続けるのは、どれほど寂しいことだろうか。 「迪」  明松が、持ち上げようとしていた猪口をテーブルの上に戻した。 「またお前は、こいつのためにそんな顔をして」  その手で、顎をすくい上げられる。迪は慌てて、涙の滲んだ目を瞬かせた。 「安心しろ。こいつはお前が心配するほどやわじゃない」 「でも」 「こいつの想いが本物ならば、いずれ甚右衛門の生まれ変わりと再会できるだろう」 「本当ですか」  たちまち目を輝かせる迪に、明松は苦笑する。 「まったく、お前は」     
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