§2

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 そして、その状態ではっと気付く。 (……床?)  眩しさにやられた目を、それでも恐るおそる開けてみずにはいられなかった。  確か自分は、星降神社の本殿を囲む瑞垣の木戸の前の、苔むした地面の上にいたはずだ。  だが、迪が今ぺたりと座り込んでいるのは板張りの床の上だった。艶が出るまで磨き上げられ、美しい木目が浮き出ている。  ぎょっとして顔を上げると、ようやく明るさに慣れ始めた目に飛び込んできたのは、見たこともない室内の様子だった。  床だけでなく壁も木でできていて、細かく組み合わされた白木の木材が複雑な陰影を描き出している。森林浴のような清々しい香りが空間を満たす。窓も照明器具も見当たらないが、少し黄色味を帯びた光が広々とした部屋の隅々まで照らしている。その光が、痙攣でもするかのように、時折ぱちぱちと明滅するのがなんとなく不穏だった。 「ここ……どこ……?」  まるで、映画か小説の登場人物みたいな台詞を口走ってしまう。 「俺の結界の中だ。まったく、いきなりこんなところまで侵入(はい)ってくるとは呆れた奴だ」  明松が不機嫌な声で応じる。いや、迪の顔の高さに合わせるように自らも膝をついているその男は、本当に明松だろうか。     
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