457人が本棚に入れています
本棚に追加
こんなに間近で正面から明松の顔を見たことなど、これまでなかった。しかも研究室で見慣れた姿ではない。まるで能か歌舞伎の衣装のような服装に、髪も黒々と長い。普通なら滑稽な仮装かと思うところだが、その姿が妙にしっくりと板についている。
いつもより更に密度の濃い迫力を感じて、迪は恐れをなしたように顔を伏せてしまった。
明松から目を逸らすと、途端に額の痛みが一段と強くなる。頭蓋骨に銛でも打ち込まれているみたいだ。こらえきれず、迪は額を押さえて呻いた。
「おい、どうした」
急に、明松の声が心配そうな響きを帯びる。
「頭が、痛くて……」
「見せてみろ」
顎を掴まれ、強引に顔を仰向かせられる。
「あ、やめ……」
制止する間もあらばこそ、迪の額にかかっていた長い前髪を、大きな手に掻き上げられてしまった。
迪の額の生え際に近いところには、直径二センチくらいの星型の痣がある。この目立つ痣が嫌いで、迪はなるべく前髪を伸ばして隠すようにしてきた。人に見られると、なぜか自分の弱点を晒しているような気にさせられるのだ。
「……!」
その痣を目にして、明松が鋭く息を呑んだ。
急に、身の置き所がないような恥ずかしさを覚える。だが、身体をよじって逃れようにも、迪の肩は明松のもう片方の手にがっちりと押さえられてしまっている。特段強い力を加えられているという感じもないのに、振りほどくことができない。
「お前、まさか」
最初のコメントを投稿しよう!