§2

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 身体の中に光が流れ込んでくる。自分の中に閉じ込められていた闇が、その光に明け渡されていくのを感じる。 (目覚めろ)  頭の中で声がする。静かだが揺るぎない、そしてどこか懐かしいような不思議な声だ。  あたかも、身体中の細胞がその呼びかけに一斉に応えたかのように、額から爪先に至るまで全身がさざめく。  明松の手がなだめるように迪の背中を撫でた。不自然に固まっていた身体からすっと力が抜ける。すると、明松の手の動きに合わせるように、何かが体内でざわっ、と揺れた。 (な、に)  これまでまったく知らなかった感覚が、迪の中で目を覚まし、動き出す。  まるで、自分とはまるきり別の巨大な生き物が同じ身体の中にもう一匹隠れていたかのようだ。こんなものを体内に飼っていて、どうして今まで気付かずにいられたのだろう。  目覚めたばかりのその生き物は、迪の感覚を内側からなぞり返していく。迪は、ほとんど本能的な恐怖に身を震わせた。 (門を開放せよ。注がれたこの力を、器に(たた)えよ)  その声はもはや耳で聞く音声ですらない。神経が脳から受け取る信号を言葉にしたらこんな感じだろうか。 「あ、ぅっ……くはっ……」     
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