§2

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 息継ぎのように唇をわずかに離しては、また塞がれる。そのたびに苦しげな声を上げてしまうが、感じているのは苦痛ではなかった。もっと圧倒的な、ほとんど迪の理解を超えたところにある感覚だった。五感をまとめて押し流されていくかのようだ。 「んふぅっ」  るろり、と口の中を舐め上げられた。たったそれだけの刺激に、全身の神経がびりびりと震える。目尻に涙が滲む。  口腔内を犯す舌と一緒に、何かが迪の中に入ってくる。燃えるように熱くて、抵抗もできないほど強くて、それなのに、胸の奥がぎゅっと締め付けられるように儚くも感じられる、何か。  注ぎ込まれたものは、迪の中でどんどん強度を増していく。加速し、膨らみ、熱を発する渦の中に否応なく引きずり込まれていく。異質だったはずの「何か」と迪はいつの間にか混じり合い、溶け合い、もはやどこまでが自分自身で感じていることなのかわからなくなる。  自分の内に侵入してきた他者と交わっている。それは言葉を失わせるほど厳かで、同時にぞくぞくするほど不埒な感覚だ。  その混じり合った流れが、迪の奥深くに隠されていた、固く閉じた扉を押し開こうとしている。 「ああっ……もう……」  もはや、頂点を目がけて駆け上がっていくその奔流を押しとどめるすべはなかった。 (今だ。門を、開け)  全身に火花が散るような感覚と共に、迪の身体の中で何かが一気に弾け飛んだ。 「あっ……あ、あああぁぁ」     
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