§3

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 自然の好きだった祖父が集落からは少し離れたところに建てた家で、周りに人家はない。それでも、一戸建てに独り住まいは何かと不用心かと思い、戸締りには気を付けているつもりだったのだが。 「えー、その言い方はないでしょ。わざわざ送ってきてあげたのにさ」  ランプの光に浮かび上がったのは、オレンジ色の長い髪を綺麗に結った少年だった。 「送ってきた?」 「だって迪、カガリの結界の中で意識を失って倒れたでしょ」  その言葉に、曖昧だった記憶の続きが細部まで一気に甦る。 「……」  迪は黙ったまま、額に手を当ててぎゅっと目をつむった。深呼吸をして心の中でゆっくりと十まで数え、再びそろりと目を開く。 「あははー、幻覚かなんかだと思った?」  目の前で、夢に出てきた少年が愛嬌たっぷりの笑顔を見せている。迪はがくりと肩を落とした。  もちろんこれが現実であるはずがない。だが、このままでは夢見が悪すぎる。 「ええと。ジン君、でしたっけ。いくつか質問に答えてもらってもいいですか」 「やだなー、そんなかしこまらなくても、ジン、って呼び捨てでいいよ」 「結界、というのは一体なんのことですか」 「へー。本当に何も知らないで入ってきちゃったんだね」  ジンは、迪が起き上がったベッドの傍らにちょこんと腰を下ろす。     
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