§2

1/11
456人が本棚に入れています
本棚に追加
/249ページ

§2

 目の前でいきなりカメラのフラッシュでも焚かれたかと思った。なんの前触れもなく視界一杯に広がった光は、暗闇に慣れた目には暴力にも等しい。  瞼の裏にちかちかと火花が散る。  それだけではない。前髪の生え際に近い額の一点が、いきなりかっと熱くなったのだ。  反射的に両手で顔を覆って、その場にがくりと膝を折る。その姿勢のまま身をすくませていると、鋭い声が降ってきた。 「葦原迪(あしはらみち)、お前か」  威厳のある男の声だ。 「こんな神域で、何をしている」  怒鳴っているわけではないのに、深くて、張りがあって、辺りの空気がびりびりと震えそうなほどの迫力に満ちている。  この声はよく知っている。顔を上げなくても誰だかわかる。  明松北斗(かがりほくと)だ。  顔からすっと血の気が引いた。 「えっと……その……例のご神体の石が、どうしても気になって……」  目を閉じたまましどろもどろに答えると、怒気をはらんだ声がぴしりと飛ぶ。 「やめとけって言ったよな」 「す、すみません」  なぜ自分が謝らなくてはならないのか。理不尽なものを感じながらも、とにかく明松の怒りをやりすごそうと、迪は床に両手をついた。     
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!