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§2
目の前でいきなりカメラのフラッシュでも焚かれたかと思った。なんの前触れもなく視界一杯に広がった光は、暗闇に慣れた目には暴力にも等しい。
瞼の裏にちかちかと火花が散る。
それだけではない。前髪の生え際に近い額の一点が、いきなりかっと熱くなったのだ。
反射的に両手で顔を覆って、その場にがくりと膝を折る。その姿勢のまま身をすくませていると、鋭い声が降ってきた。
「葦原迪、お前か」
威厳のある男の声だ。
「こんな神域で、何をしている」
怒鳴っているわけではないのに、深くて、張りがあって、辺りの空気がびりびりと震えそうなほどの迫力に満ちている。
この声はよく知っている。顔を上げなくても誰だかわかる。
明松北斗だ。
顔からすっと血の気が引いた。
「えっと……その……例のご神体の石が、どうしても気になって……」
目を閉じたまましどろもどろに答えると、怒気をはらんだ声がぴしりと飛ぶ。
「やめとけって言ったよな」
「す、すみません」
なぜ自分が謝らなくてはならないのか。理不尽なものを感じながらも、とにかく明松の怒りをやりすごそうと、迪は床に両手をついた。
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