テーマ:敗因、密かな楽しみ

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 男には、決して引いてはならない時がある。 とは、昔見たアニメの艦長が言った言葉である。いや、うろ覚えだから正しいかは知らないけども。そもそもこんな台詞、古き日本の一般論とも呼べるような精神感をそのまま映しただけのものだから、それこそ誰でも思いつくんだろうなと、思う。  仮にも男女平等が謳われてもう数十年、時代は手のひらサイズの情報端末があればどんな人間でも性別年齢関係なく仕事ができるようになった現代で、この表現はまさしく時代遅れと言うべきだろう。  そう、現代において、この言葉はこう改変させられるべきなのだ。 「――男には……ッ、引かなきゃいけない時がある……ッ!!」  抑えつけた声で言っても、暮れなずむ放課後の誰もいない教室にはどこまでも台詞が響いていく。俺は教室の片隅で、言い終わると同時にタップ済みのスマホの画面を凝視した。  目の前の枠の中で、綺麗なエフェクトと一緒に光輝く植物のツタが伸びていく。伸びきった先には大輪の花が咲いて、やがてその先から見た事も無い形の種が出来、そのうち根元から落ちた。  種は地面に落ちて割れると、中から白い閃光が溢れ出て画面が真っ白になって――。 『……こんにちは。その……宜しくお願いしますね』  そして、その中央に少し地味目の魔法少女が現れると、俺は肩を落としたのだった。  クラスの皆には秘密にしているが、今スマホの中で展開されているアプリゲーム『魔法少女びーんず・しすたーず』が、俺の最近の楽しみだった。  しかし……今日で五回目の課金だというのに、推しが、出ない……。  今回の敗因は何だったのか。肩の影に包まれた液晶の中で、静かに微笑む彼女を見ながら――。 「まあいっか」  やっぱり可愛いものは可愛いので、今日も少女たちの育成を始めるのだった。
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