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 全国的に月曜日が訪れている。  したがって私もペンシル・ビルの一室で勤務中だ。ちなみに私が勤める結城会計事務所のオフィスは、大阪に広がる上町台地を貫く谷町通りに面して聳える、赤煉瓦に覆われたビルの七階にある。私こと大沢恵里菜は、22歳の新米OLだ。平凡を絵に描いたような女子社員である。  それにしても、どうも勤労意欲が湧いてこない。そのせいで手元の帳簿の仕分け作業が滞ってしまい、さっきから仕事が遅々として進んでいない。 「恵里菜さん。どうも集中力を欠いてますねえ」  上司である結城さんに指摘され、私は我に返った。そして不覚にも眠ってしまいそうだったことに気が付いた・・・・・・。 「す、すみません・・・・・・」 「たまには、そんな日もありますよ」 「いえ、集中します!」 「基本的には、君はここに居てくれるだけでいいんですけどね」  事務所の経営者である結城さんが、甘い微笑を浮かべながら言う。もはや優しすぎて、逆にプレッシャーで怖くなってくる。いっそ怒って下さいよ・・・・・・。  しかも彼は嫌味を言っているわけではなく、ただ異様に部下に甘いだけであるらしい。 「もうっ、何を言ってるんですかっ!」 「ただの事実を述べたまでですが」  平然と告げる事務所の経営者に、私は狼狽を隠せなかった。 「い、いえ。そんなわけにはいきません!」 「君は真面目ですねえ」 「あ、いえ、普通です。普通だと思いますっ」  もしかして私は、上司に揶揄われているのでしょうか? ポーカーフェイスな彼に、反応を面白がられているのでしょうか?   どちらにせよ結城さんは私に甘すぎる。厳しくされても困るものの、私たちは一応、唯一の上司と、唯一の従業員なので、甘くされすぎても落ち着かなくなる。だって毎日二人きりなわけだから。これは私が未熟なせいでしょうか?   困惑を覚えるとはいえ、この眉目秀麗な上司がマイペースなのは、今に始まった事ではない。彼は会計士資格試験に二十六歳で合格した上に探偵を副業にするというハイスペックな頭脳の持ち主なので、そもそも常人ではないからだ。  そんなわけで、今日も平和だ。変わったことといえば、先日は最寄りの競馬場で大穴の馬が勝ち、レースが大荒れだったことくらいだろうか。 上階のオフィスに務めるサラリーマンたちが、エレベーターの中で騒いでいた。  そうやって呑気にしていたところに、事件は起こった。
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