■一.

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■一.

 折原美由紀は高校時代、僕の女神だった。クラス一の美少女というわけではない。顔の造形で言えば精々中の上が限界といったところだろう。しかし明るく朗らかな性格、ころころと変わる豊かな表情はとても魅力的で、僕は入学当初からすっかり彼女に魅せられていた。これといった趣味もない上、暗く地味な僕には友達も少なかった。分け隔てなく誰とでも接することのできる彼女は僕にも気軽に話しかけてくれた。もっとも、人気者である彼女の周囲にはいつも人だかりができていて、僕は基本的に彼女を遠くから見つめるだけだったが。それで十分だった。  そんな僕に転機が訪れたのは高2の冬、東京にも珍しく雪が降った日のことだ。その日のことは今でもはっきり覚えている。クラスのある女子が家で大事にしているドールを友達に自慢しようと持ってきたのだ。  ドールと聞いてあなたはどんなものを思い浮かべただろうか。気味の悪い球体関節人形? ちゃちなバービー人形? ちなみに僕が当時思い浮かべていたのは、ヒラヒラしたドレスに身を包んだ顔のでかいフランス人形だった。……だから、窓の縁にちょこんと座ったドールを見て僕が味わった衝撃は今でもよく覚えている。    
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