SWING!

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「女々しいだろ、それは」  唇を歪ませて、塩谷は言った。鼻からは笑いの息が漏れ、こちらを見もせずに、指先は首元のネクタイを緩めている。バス停のベンチに並んで腰を下ろすと、晴天に冷やされた晩秋の乾いた風が、さわさわと頬を撫でていった。 「女々しいかな」俺は自分の失態を親友に渋々告げた後は、塩谷が返す呆れた風情に声を弱らせた。「やりすぎたかな、やっぱ」 「そうだろうな。あんまり食い下がるなよ、嫌われたくねぇんだろ」 「でもさ、見ちゃったんだよ目の前で。他の奴から……映画かなんかの、紙? 渡されてんの」  俺は両手の親指と人差し指で長方形を作って忌々しげに揺らした。先刻、下校のチャイムが鳴り響く廊下の端で、俺は見たのだ。同じクラスの彼女に俺がさりげなく目を遣ると、彼女もまた俺を見ていて、バイバイ、ってお互いにはにかむのがいつものこと。ところが、今日はその間に立つ背中があった。紺色のブレザーの肩は広く、背は、俺と大して変わらない――と思いたいがもしかしたら俺より高い――、なんぞ、どっかの、運動部の主将だった気がするヤツ。彼女と合わせそびれた視線のやり場に困り、話し込んでる脇を過ぎつつ半眼で窺えば、男の指先でペラペラした細長い紙が揺れていた。 「俺とだけ特別仲良いと思ってたんだよ」 「女子のそういうの、傍目からは分かりにくいしなぁ」塩谷は淡々と呟き、バスが向かってくるであろう道路の先に気だるい視線を投げている。 「あー、失敗した。もしあのデカイ奴のことが好きなんだったら俺マジで邪魔したし」 「そういう後悔なんだ」 「は? どういう意味だよ」 「いや、盗られたくない! っていう、わがままかと」 「それもあるけどさ、そもそも俺のモンじゃないんだよあの子は……」俺は前のめりになり、頭を垂れた。乾いた風が、俺の少し伸びた後ろ髪を僅かに動かす。うなじにうっすら汗を感じるのは、俺の焦りが滲んでしまっているからかもしれない。
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