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もはや課長は私を見てもいない。
忙しそうに書類をめくりながら、声だけが飛んでくるのだ。
「藤間!聞こえてるだろ?!早く来い!」
なかなか来ない私に痺れを切らしたのか、ようやくこっちを見る。
ギョロッと人より飛び出した目を見開いて私の名前を叫んだ。
「…はい」
私はか細く返事をして、重い腰を上げた。
課長席への道のりを歩く気分は最悪だ。
茨の道、なんてものじゃない。
マグマがうごめく灼熱地獄の道だ。
冷や汗を拭いながら同期や後輩、先輩のイスの間を通り、ゆっくり課長席へたどり着いた。
着くやいなや、デスクの上に投げ出されたもの。
それは、私の先月分売上伝票だった。
「なんだ、これ」
「9月の売上、です…」
「売上だぁ?利益の予算比見てみろよ」
毎月営業一人ひとりに課せられる売上予算。
この会社の売上予算は、既存のクライアントの他に、新規で獲得しなければいけない予算も割り当てられる。
営業は普段の仕事の他に新しいクライアントを見つけに、日々外に出で営業活動をしなければいけない。
それは男だろうが、女だろうが関係なく同じように割り当てられ、営業は必死に探しに行くのだ。
それは私も例外ではなく、入社5年目の社員として、それなりの予算が割り当てられているものの、
壊滅的に営業のセンスがなく、これまで獲得した新規クライアントといえば、町の小さな工務店くらい。
もちろん、新聞出稿(新聞に広告を載せること)できるほどのお金はなく、いいとこ折り込みチラシ(少ない予算でできる)くらいだ。
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