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飼っていたウサギが死んだ。
夜遅く会社から帰ってくると、ゲージの中でウサギが倒れていた。ピクリともしないウサギをゲージから取り出すと、ふさふさの毛並みが指をくすぐり心地よい感覚を覚えたが、その奥にある肉は、冷たく凍えていた。
悲しくはなかった。
なぜなら、好きで飼っていたわけじゃないから。
上司が飼っていたウサギが子どもを産み、貰い手がなくて押し付けられたウサギだった。真っ白で赤い目を持つ子ウサギ。
ウサギどころか、犬猫さえ飼ったことがなかったから、動物の飼い方なんて何一つ知らなかった。ネットでとりあえず必要なものを調べて道具や餌を買い、あとは放っておいた。
考えてみれば、俺がしっかりとウサギを触ったのは、これが二回目だった。
死んだウサギをどうしてよいのかわからず、俺は同じマンションに住む隣人に電話をした。珍しくワンコールで男は出た。不機嫌な声が聞こえる。俺はそれに構わず、いつもと同じ調子で要件を言った。
「ウサギが死んだ。どうしたらいい?」
そう言うと、男は一瞬言葉を失ってからあわてた様子で、「すぐ行く。」と言って電話を切った。小説家である隣人は、ほぼいつも家にいるので、1分も経たないうちに家の扉が乱暴に開いた。鍵は、いつもかけていない。
男は電話口同様、あわてた様子だった。締切前であるのか、無精ひげを生やしたままで、普段の小奇麗な恰好とは程遠い恰好であった。俺と目も合わせずに、俺の手の中に収まったままの白い毛玉に一目散に駆け寄り、そっとそれを持ち上げて悲しそうに顔を歪めた。
「……本当だ…。死んでる…。」
男は小さく震えて、ぽろっと一筋の涙を零した。
「お前、知ってるか…?ウサギって、さびしいと死んじまうんだぞ?こいつもきっと寂しくて死んじまったんだっ。」
そう言って、男はウサギを抱いてポロポロと涙を流し続けた。
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