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 手の中の黒光りする物体――自動拳銃(オートマチック)をくるりと回して、彼は言った。本当はもっとちゃんとした理由がある、というかあったはずなのだが、もうどうでもよくなっていた。男ははぁ、と心底めんどくさそうに溜息を吐くと、再び口を開く。 「いつも言ってるよな、()るのは必要最低限にしろ、って」  そうでしたっけ、なんておどけて返事をすると、男の眉間の皺が深くなった。 「それにしても、見つかるとは思ってなかったなぁ」  彼はそこで初めて、男の方を向いた。 「バカ言え。ご丁寧に暗号にして、場所の手掛かり残していきやがったくせに」  その言葉を聞いて、彼は唇の端を吊り上げる。先程の笑みとは違って、今度は心から楽しんでいる様子で。 「でも、想定してたより早かったですよ」  そうかよ、と。男はめんどくさそうな声色を崩さない。  唐突に、彼は踵を返し、出口へ向かって歩き出した。その足取りは軽い。 「このままにしてくのか」 「証拠を残すようなヘマはしません」 「そらそうだろうよ」  二度目の溜息を吐き出して、男もまた出口へ向かった。後には動かなくなった女と、鮮やかな赤に染められた壁が残された。   彼らは互いのことをほとんど何も知らない。年齢も、名前も、表向きの職業も。知っているのは性別と、かろうじて名字と、あとは信頼に足る腕を持っているということくらい。     
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