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「八年前に六歳下の妻と離婚。彼女との間に子どもはいなかったようです。現在は千代田区のマンションで一人暮らし。慈善事業として孤児院経営してるんですけどね、こいつ。ちょっと叩いてみたら出てくる出てくる。寄付された運営費をポケットマネーにしてるとか、施設の子どもたちで人体実験してるとか。あとは某国の官僚と個人的かつ政治的な付き合いがあるみたいです。必要ならもうちょっと突っ込んで洗ってみますけど」  どうしますか、と、首を傾げて問い掛ける。 「いや、充分だ。プランができ次第実行に移すぞ」  りょーかい、と間延びした返事と共に、持ってきたパソコンを開いて操作する。画面上に石上の先一週間の簡単なスケジュールと、東京都内の地図が表示された。  彼らの仕事の流れはこうだ。まず、依頼の受注。これはほとんどの場合“元締め”と呼ばれる仲介業者から入るため、直接依頼人と顔を合わせることは滅多にない。ターゲットの名前と簡単な情報が送られてきたら、そいつの細かい身辺調査を行う。その後プランを練って、実行。  とまあ纏めてしまえばこれだけなのだが、ここで面倒なのが“身辺調査”だ。仕事をする上で義務付けられているわけではなく、完全に二人の――というか来須の我が儘である。当然これによって依頼に掛かる時間も労力も跳ね上がるのだが、殺すに値する人間なのかどうかは自分で判断したい、というのが来須の言い分だ。 「あんたが殺さなかったところで、他の同業者に話が回るだけですよ」  一度そう言ったことがあるが、短く分かってる、とだけ返ってきた。それ以降も、身辺調査をしたうえで“見極める”というこのスタイルは変わっていない。     
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