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耐えきれなくなったのか、踵を返す。だが二歩目を踏み出すよりも早く、フードの男が目の前に回り込んでくる。ドスン、という衝撃を感じて、恐る恐る視線を下げると、自分の腹にナイフの柄が突き立っているのが見えた。徐々に赤く染まるスーツを驚愕の眼差しで見つめ、その表情のままずるずると崩れ落ちた。投げ出した左手の指が一度、ぴくりと動いたのを最後に、路地を真っ暗な静寂が包んだ。
「お疲れさまでした、来須さん」
闇の中から夏秋が現れた。地面にうつぶせで横たわる石上を足でひっくり返すと、軽く屈んで完全に息絶えていることを確認する。
「あっちの二人は?」
少し離れた所に倒れているSPを示す。
「伸してあるだけだ。掃除屋に任せる」
「そいつらならもう呼んであります。さっさとここを離れましょう」
死体や現場の処理は自分たちの仕事ではない。後始末を専門にする、“掃除屋”と呼ばれる者たちが存在する。あの二人の事も、彼らが上手く誤魔化してくれるだろう。もちろん、殺す以外の方法で。
角を曲がったところに、小型のバンが停めてあった。夏秋が運転席に、来須は助手席に乗り込む。
「そういえば、どうでした? 消防車。タイミングばっちりだったでしょ」
「ああ」
「ちょっと、それだけですか? もっと褒めてくださいよ」
「……よくやった」
「うわ、素直に褒める来須さんとか気持ちわりぃ」
投げやりな来須の言葉に、夏秋はケラケラと笑った。来須は右側の席を鋭く睨むが、夏秋は気にした風も無くエンジンをかける。ゆっくりと走り出した車は、二人の殺し屋を乗せ、夜の闇の中へと消えていった。
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