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3
そうして僕は1人大きなモニター画面と向き合い見つめる。
バックアップとして取っておいた今のアレックスの感情プログラムだ。彼の感情を司るソースコードがずらりと並べられ、羅列している。目がチカチカする。
その中に見つけた『J』の文字。
僕が彼の恋愛プログラムを組んだときにこっそり潜ませたものだった。
まさかアレックスがこの複雑な感情回路をくぐり抜けこのプログラムにまでに行きつき、発動させるなんて思わなかった。これだからこの業界は面白い。研究に没頭してしまうのだろう。
僕は思い返す。
アレックスから報告を受けたとき、僕の心に沸き立ったあの感情はなんだったろうか。
研究員としての成功の喜びか……それとも。
恋愛の喜びしか知らぬロボットにも汚い感情を与えられて溜飲を下げた、下卑た喜びか。
「人間は汚い」
ポツリと1人もらす。
有明。君は知らないだろう。
今日君が妻を連れて行くそのお店、彼女はもう僕と行ったことがあるんだよ。だから彼女はきっと肩身の狭い思いで結婚記念日を過ごすだろう。
君しか知らないと思っている彼女の唇の柔らかさも、乳房の形も。僕はずっと昔に知っているんだ。僕を拒絶した──涙に潤んだ瞳だって。
感情を与えたり消したりしてくれる悪い神様。
そんなのが本当にいるのなら消してくれ。
僕の中でずっとくすぶり続けているこの感情を。
画面の中のプログラムJ。
デリートキーで、それは消えた。
終わり
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