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 アレックスの定期健診を終えた僕は車を走らせ、研究室へと戻ってきた。  自分のデスクに近寄り荷物を投げやる。着ていた上着も乱雑にその前の椅子に引っ掛けた。 「東雲、おかえり。アレックスの調子はどうだった?」  僕のデスク前に座る同僚の有明(ありあけ)が声をかけてきた。無精髭が伸びかかった顎を突き出し、無邪気に笑っている。 「順調だよ。とくに大きな問題もなかった」 「そいつは良かった。あいつは優秀だな」  大学から博士課程まで共にし、さらに就職先も同じだった有明。彼は相変わらず男らしい精悍な顔つきでたくましく笑う。豪快で豪胆。繊細な神経をもつインテリ系が多いこの業界で、彼は青嵐のように周囲にあざやかな風を巻き起こす存在だった。  そんな彼に僕は小さく笑った。 「ただ一つ。面白い現象があった」 「現象?」  僕は他の研究員がいないことを確認すると、声を小さくして言った。 「アレックスはどうやら『嫉妬』をしているらしい」 「はあ? 嫉妬?」  有明の席後ろにあるコーヒーサーバーに近寄るため足を動かした。自分のマグカップを横の棚から取り、サーバーにコトンと置く。 「しかも『恋心』による嫉妬だ。お相手は誰だと思う?」     
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