0人が本棚に入れています
本棚に追加
ズッと有明はコーヒーをすする。左利きの彼のマグカップを持つ手を見つめ、僕はまた小さく「そうだな」と答えた。
ロボットに恋愛プログラムを組むとき、嫉妬というソースコードは作らなかった。負の感情であるそのプログラムを入れることは、人間に対しての危険因子をはらんでいるということで除外されたのだ。
妬み嫉み。独占欲や劣情。そういった負の感情は全てロボットからは抹消されている。
それが僕には少しだけ妬ましかった。
「あんな複雑な想い、ロボットには負荷がかかりすぎる」
僕はそう言って小さく笑った。今回のこの現象は来週約束した特別メンテナンスでチェックし消してくるよ、と言う。
「おいおい、じゃあ恋心も消しちまうってか?」
「それは幸せな感情だから残しておいてやろう」
「はは。……なぁ東雲、俺たちはまるで神様みたいだな」
有明は失礼にも僕を指差し笑う。人差し指を突きつけて丸めた他の指の中、シルバーの結婚指輪がよく見えてキレイに光っていた。
「神様?」
「ああ。しかも悪い神様だ。奴らの感情をコントロールして与えたり消したりしている。こういうとき、俺は少しだけ自分の仕事が怖くて嫌になるよ。人間風情で何をしているんだってね」
そんな彼の言葉に僕の目が細くなる。
最初のコメントを投稿しよう!