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「おにいちゃん!」
「ララ、どうした」
これはまだ、スモーキーがルードの頭になる少しだけ前の話。
この時点で既に無名街一の強さを誇っていたスモーキー、「家族」の前でさえ滅多に笑わない彼でも「妹」であるララの前では自然に口元が優しく弧を描いていた。
そんな冬のある日、ララが湯気の立ったアルミ缶を持って帰ってきたのだ。
「おにいちゃん、これ」
はい、とスモーキーに向けて差し出された缶のパッケージには片仮名で「ここあ」とかかれていたように思う。
「ララ、なんだこれ」
「これ、ココアっていって、おばさんに貰ったんだ。これはおにいちゃんにあげてって。私も貰ったから飲んでみたら体がほわあって暖かくなってね、おにいちゃんいっつも体冷たいからさ。」
ニコニコしながら差し出される缶を前に常に冷静なスモーキーでも困惑するしかないようだった。
「…えっと」
「そんな怖がんないでさ!まぁ飲んでみなって!」
「…別に怖がってるわけじゃない」
スモーキーが怖ず怖ずとララの手に握られている缶に手を伸ばす。
栓をあけると、甘い匂いと湯気が場所一杯に広がった、ように思えた。
「…美味いな、凄い、甘い」
「でしょ!」
ララは得意気に胸を張っている。
その後は兄弟水入らず、俺らはそっとその場を離れた。
街を一周して二人の元に来てみると、スモーキーとララがお互いの体で暖をとるようにして眠っていた。
「ああもう、せっかくあっためた体が冷えちまうよ、なあタケシ」
「そうだな、スモーキーもララもしょうがねぇな」
苦笑しながら俺とタケシは自分たちの上着を幸せそうな顔で寝ている二人に掛けてやった。
その後、顔を真っ赤に染めたスモーキーからお礼と共に上着を返されたのはまた別のお話。
「そんな話、今したら泣いちまうじゃねえかよ」
「そうだよピー、空気読めやこのKY」
「んだよKYって!」
そうだ、もうスモーキーは居ないのだ。
あの日、スモーキーに未来を託されたタケシは今、新たなルードの頭として奮闘している。
「なあ、タケシ兄ちゃん!遊んで!」
無名街から場所を変えても、俺らはなにも変わっちゃいない。
ただ、「人のため」だけでなく「自分のため」にも生きるようになっただけだと思う。
「いいぞ、ピーも来いよ」
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