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「なぁ、リトル・ルーシカ。どうして俺たちは、葛藤を抱えなければいけないと思う? 俺は、人間のココロがあんまりにもぐちゃぐちゃだからだと思うんだよ。君は否定するけどさ」
書き損じた紙切れをまるめるような仕草をして、ぐちゃぐちゃ、とハートマン氏は仰いました。それから彼は、君がシンプルすぎるんだ、と口を尖らせました。それに対してリトル・ルーシカは申し訳なさそうに尋ねます。
「普通の人はどんなことを考えているんでしょう」
ハートマン氏は一度右手の人差し指を軽く額にあてて黙り込み、話し出しました。
「そりゃ、……そうだな。たとえば、たとえばの話をしようか。わかりやすいように俺を登場人物にしよう。もし俺に好きな娘がいたとする。もし、だからね。俺はその娘に愛を告白しようとしている。けど、俺はその娘にずっと見当外れな論を振ってはぼこぼこにされているという苦い経験がある。俺はその娘に好きだと言いたいと同時に言えないと思っている、とか」
二人の歩みはいつの間にか止まっておりました。リトル・ルーシカはハートマン氏の表情を窺おうとしましたが、彼は膝に両手をのせ、奇妙な前屈姿勢をとって顔を俯かせてしまいました。そして彼は、これはよくない、よくない、とぶつぶつ言ったかと思うと、急に顔を上げました。
「リトル・ルーシカ!」
よく通る声でハートマン氏は彼女の名前を呼びました。
「俺は今、ひどく情けないことをした。だから真っ当に言うよ。いいかい、これは本当の話だ」
リトル・ルーシカは小さく首を縦に振りました。
「俺のココロも、君を想うという点において……まったく、驚くくらいにシンプルなんだ」
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