リトル・ルーシカ

2/11
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 昔、リトル・ルーシカという乙女がこのチャペルボートで式を挙げたことがございます。その挙式は大変な静寂に包まれた中で行われました。それもそのはず、そこにはリトル・ルーシカとその夫となるハートマン氏、彼らの仲人である丸眼鏡の老人と牧師様の四人だけしかいらっしゃらなかったのです。新たな夫婦と一人きりの参列者を迎えているチャペルは、寒々しいほどに眩しい陽光が天窓から差し込んでおりました。  リトル・ルーシカはぎこちない微笑みをお見せになっておりました。硬い表情のまま誓いの言葉に頷き、身じろぎもせずにハートマン氏のキスを受け入れたのでございます。彼女は緑がかった漆黒の短い髪に、同じように黒々とした切れ長の瞳をお持ちで、とても聡明そうな顔立ちをしておりました。そのお姿は乙女とお呼びするよりは少年と形容する方がふさわしいのではないかと私は思いました。指輪が彼女の左薬指にはまる瞬間をただ黙って見つめ、彼女の幸せを祈ることが私の精一杯の務めだったのでございます。 チャペルの小さな鐘が、深い音色で響きわたっておりました。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!