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彼女と一緒に過ごす日々は、穏やかで、幸せだった。
自分が何者か忘れてしまう程に。
自分の立場も忘れて。
だから、彼女を失ったと分かった時、世界が動きを止めた。
それでも、妻にバレたという事よりも、彼女を失ったという事の方が俺の心を引き裂いた。
そう思う程に、彼女の存在は俺の中で大きかった。
だけど、一度は夫婦になった俺達。
愛し合って結婚したのだから、妻をこれ以上裏切る事も出来なかった。
いろんな感情の狭間で揺れる気持ち。
ハッキリしなければいけないのに、心がついていかない。
そんな時。
「九州に転勤になったの」
告げられた言葉に、目の前が真っ暗になった。
グラリと世界が歪んで、何も考えられなくなった。
彼女は俺の手を離して、遠くに飛んで行ってしまった。
自分の事は、もう忘れてほしいと、そう言い残して。
忘れられるはずがない。
俺の世界は、今も昔も彼女で溢れているのだから。
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