1人

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「ただいま」 静かな部屋に、自分の声が落ちる。 それでも、真っ暗な部屋から返事が返ってくる事はない。 そんな『日常』の中に、俺はいる。 結婚はしている。 それでも、俺の生活の中に『彼女』はいない。 「はぁ」 深い溜息を吐いて、ソファに雪崩れ込む。 最近仕事が忙しくて、体がもうヘトヘトだ。 電気を点けるのも億劫で、窓から漏れる街灯りをぼんやり見つめた。 そんな時、静かだった部屋に携帯がメールの着信を知らせる。 テーブルに置いてあったソレを手に取り、開くと彼女からだった。 『来週帰れる予定だったけど、1カ月帰国を伸ばす事にします』 まるで、業務連絡のようなメール。 『夫婦』のメールとは程遠いメール。 「了解」 返事をするのも億劫で、そのまま携帯を床に落とした。 きっと、彼女も返信など待っていない。 結婚生活3年目。 俺達は、互いに別の世界で生きていた。
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