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「一ノ瀬さん」
俺の名前を呼んで、嬉しそうに駆け寄ってくる姿を見る。
もし尻尾があったら、きっと千切れんばかりに振っているだろうなと、思うと笑みが零れる。
それでも、彼女から与えられる優しさが俺の心を満たしてくれる。
空っぽになっていた心を、優しさで一杯にしてくれる。
ダメだとは分かっている。
これ以上、関係を深めてはいけないと分かっている。
それでも。
「送っていく」
雨空を見上げる彼女を見た時、無意識に言葉が出た。
もう二度と会わないものだと思っていた。
初めて会ったあの日も、彼女はそのつもりだったと思う。
特に俺の連絡先を聞く事もなく、あっさりと俺の前から立ち去った。
あの後、連絡先を聞かなかった事を酷く後悔したけど、それで良かったんだと自分に言い聞かせた。
だって、俺と彼女の未来が重なる事は無いのだから――。
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