28人が本棚に入れています
本棚に追加
少し出遅れての昼休みになった、この日。
いつも通り、最上階でエレベーターを降りた未波の目に、
偶然、ラウンジから駆け出てくる辻上の姿が映った。
しかし、明らかに未波に気付いてハッとした辻上が駆け寄ったのは、
彼女ではなくエレベーター。
間違いなく、二人の視線は合っていた。
それなのに彼は、分かり易いほど明らかに視線を外した。
そして、声を掛ける間もなく、彼は、未波が降りたばかりの箱の中へと飛び込んだ。
えっ……。
エレベーターは、振り返ることもない彼の背中を見つめる未波の目の前で、そっと扉を閉じた。
それと同時に、彼女の全てが凍り付く。
未波は、ザワめく昼の賑わいに包まれながら、エレベーターの前に立ち尽した。
まるで苦いデジャヴのように、頭も、心の中も過去の失恋同様に
真っ白にポッカリとした空白になっている。
だが、辻上が拒絶のオーラを纏っていたことだけは、はっきりと残っている。
そして、微かに震える彼女の口から小さな呟きが零れ出た。
なんで――。
だが、当然それに答える者はなく、
呟きは、昼休憩の雑然とした物音の中に消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!