一章

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 帰宅すると部屋に明かりはなく、真っ暗だった。  それでも人の気配は感じたから、 「ただいま、今帰ったよ」  と、言ってみた。少し待ってみたが返事はなかった。  ソファーの上辺りで何かが動いた。すぐにそれがミサだと判った。  僕は部屋の明かりを点けた。案の定、ミサはソファーに凭れていた。僕は笑いを堪えるのに必死だった。  ミサは怒っている時、必ず真っ暗の部屋でソファーに座り、腕組みをしていた。私は怒っていますよ、と、僕にアピールしているのだ。僕はミサの、そんな子供じみた行動が堪らなく可愛く、愛しく思え、いつも思わずニヤついてしまうのだった。  「ただいま」  僕はわざとミサの怒りに気付かないフリをして、顔を覗き込んだ。  ミサは少し驚いた表情を見せ、すぐにそっぽを向いた。これ見よがしに頬を膨らませている。そんな動作が可愛くて、面白くて、遂に僕は吹き出し、声を出して笑った。  ミサがこちらを睨んだ。その顔がみるみる赤みを帯びていく。  マズい。余計に怒らせてしまった。慌てて口を噤むが時すでに遅し、ミサが勢い良く立ち上がり、叫んだ。 「何がそんなに可笑しいのよ、私が怒ってるのがわからないの?」
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