一章

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「ごめん、ごめん。笑った事は謝るから落ち着けって」  ミサの肩に手をかけ、座るよう促すも失敗。僕の手は瞬時に払われた。 「笑った事は、ですって?他にも謝らなくちゃいけない事があるんじゃない」  これは困った。相当ご立腹のようだ。しかし……。  僕は今日一日の記憶を反芻させてみた。  朝、この時はまだミサの機嫌は良かったように思う。ミサの作った朝食を平らげて出勤。仕事を終えた後はデパートに立ち寄って買い物してから帰宅。今に至る。何のことはない、いつもと変わらぬ一日だった。ミサの機嫌を損ねる様な事をした覚えはない。  と、なれば最終手段。直接訳を訊く他ない。 「ちょっと待ってくれ。謝らなきゃいけない事って何だ?何をそんなに怒ってる?」 「信じらんない、しらばっくれちゃって……」呟くように漏らし、ミサはまくし立てた。 「あなた今日、デパートに行ったよね。私、見たんだから。あなたと私の親友のトモちゃんが楽しそうにお喋りしながら、アクセサリー売り場を歩いてるトコ。私、見たんだからね」  ミサは眼を真っ赤に充血させ、今にも泣き出しそうな顔をしていた。 「お前、あそこに居たのか?」
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