一章

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 ミサはキョトンとした顔で僕の話を聞いていた。話が終わるとミサは顔をくしゃくしゃに歪ませた。両目からぽろぽろと流れ落ちる涙をそっと拭ってやった。 「ごめんね、ごめんね」  次はミサが謝る番だった。 「いいって」  僕はミサを抱き締めた。震える小さな背中をぽん、ぽん、と優しく叩いた。 「そんなこと知らなくて、私、酷いことしちゃった……」  僕の胸の中で嗚咽を漏らしながら、ミサが言った。  酷いことっていうのは怒った態度をとった事だろうか。それとも僕へのプレゼントを買わなかった事?どちらにしろ可愛いものだ。 「気にしてないよ」 「違うの。私、あなたがトモちゃんに盗られちゃうと思って……、トモちゃんを懲らしめてやろうと思って……、私……」  忘れていた。ミサは極度のヤキモチ焼きだった。僕が女性歌手の曲を聴いていたら、怒ってコンポをゴミに出した事があった。僕がドラマのヒロインを可愛いと言えば、テレビを押し倒して破壊した。  嫌な予感がした。もし、ヤキモチの対象が身近な人間に代われば、ミサはヤキモチでは済まされない行動にでる可能性があった。漠とした不安が僕の背中をじっとりと濡らしていた。  そして、予感は次の瞬間に現実のものとなった。
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