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「どういうこと?」
「あ、おかえりー」
気づけば、その矛先は母に向かっていた。
「なんで言わなかったの?」
「なにを?」
「アリスが外国人だってこと」
言っていたらどうだった、ということはないけど。僕の怒りは収まらなかった。
「だって、聞かなかったじゃない」
実にあっさり。
ああ、そうですか。僕は無言で自分の部屋に入った。母は、僕が外国人を嫌いだってことを知らない。言ってない。それを言うと、母を否定してしまう。そういうことじゃない。母を否定しているんじゃない。けど、僕にはそれを説明できる術(すべ)はまだなかった。
気づけば、フラフラっと家を出ていた。どこへ行くという当てもなく、ただ歩いていた。6時でもまだまだ外は明るい。僕は夕焼けに照らされた道端の石ころを蹴った。ころころと転がって、マンホールの上で止まった。
あの家がなければ、僕にはもう帰るところはない。親戚も、県外もしくは海外(会ったことはないけど)。で、ひとりでは生きられない僕はあそこに帰るしかない。だけど、まだ帰れない。今帰ったとしても、誰かに当たってしまう。自分が英語の塾を開いているというのに、英語ができない僕に対して何も言わない母。そんな優しい人に、あたりたくはなかった。
いつの間にか、僕の足は家の方へと歩き出していた。
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