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大翔は止まらない。どうしたっていうのだろう。五歳の子供の足だ、それほど速くはない。そう思ったのだが出遅れたせいで結構距離がある。下り坂のせいで勢いがつき転びそうになるのをなんとか踏ん張り大翔を追いかける。よし、なんとか追いつけそうだ。
どれくらい走っただろうか。五十メートルか、百メートルか。いや、そこまで走っていないかもしれない。そう思ったところでなんとか追いついて前に回り込み大翔の足を止めた。運動不足が祟って息切れしてしまいなかなか大翔に話しかけられなかった。深呼吸をして息を整え、どうにか言葉をかけた。
「大翔、どうした急に」
「えっ、あれ、ぼくは……えっと」
大翔はキョトンとした顔をしていたかと思うと、キョロキョロとあたりを見回して黙り込んでしまった。
「大丈夫か」
「うん、大丈夫。けど、どうしてここにいるの。神社にいたのに」
大翔の言葉に眉間に皺を寄せて「おまえ、もしかして覚えていないのか」と問い掛けた。
「うん、わかんない」
「神社から急に走り出したんだぞ。呼んでいるって言って」
大翔は空を見上げてなにやら考えているかと思ったら「あっ、そうか。若丸だ。おじちゃん、早く犬岩に行こう」と叫んだ。
わかまる!?
「誰だ、それは」
「犬だよ、犬」
犬ねぇ。けど、犬の鳴き声なんかしなかったけど。犬岩か。行くべきだろうか。大翔は一時的だが正気を失っていた。危険かもしれない。いや、大丈夫か。この先に悪い気は感じない。何かに取り憑かれたわけじゃなさそうだ。
渡海神社の狛犬が何か知っていそうな気がするが、今は犬岩に行こう。
***
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