只今、不思議捜査中~東のはずれで犬が鳴く~

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 それにしても大翔は静かだ。そう思った瞬間、大翔の手を握る手にビリっと電気が走り思わず強く握ってしまった。それなのに大翔は何も言わずに見上げてきただけだった。  感情が読めない眼差しに、こいつ大翔かと思ってしまった。引き返したほうがいいのだろうか。何かとんでもないことが起きるのではないだろうかとの懸念はあったがこのまま進むことにした。悪い気が感じられない。きっと大丈夫だ。  少し進むと犬岩が見えてきた。岩の上部にふたつの突起があり、耳のように映る。見れば見るほど犬に見えてくる。だから犬岩って呼ばれているのだが。ここは源義経の伝説がある場所だ。  ここに犬を残して義経は奥州へ逃げたって話だ。犬は義経を七日七晩吠え続けて八日目に岩になってしまったって言い伝えられているけど、それは誰かの創作だ。犬が岩になるわけがない。というかこの岩は中生代ジュラ紀(約一億五千年前)の硬砂岩・泥岩だ。入り口の看板にも確か記されていたはず。間違いない。  つまり義経伝説は創作だと言える。いや、そうなのか。犬が大岩になったってことは嘘だと証明しているに過ぎない。義経がここから奥州に逃げたことは嘘だとは言えない。犬もつれていて置いていった可能性は否定できない。  ならば、その犬が大翔を呼んだのか。なんのために。大翔を呼ぶ理由があるのか。その犬の幽霊がここにいるってことだろうか。  若丸って……。  卓史はスマホで調べてみた。義経がここに置いていった犬の名前は若丸だった。  これって、まさか。偶然じゃないよな。
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