13人が本棚に入れています
本棚に追加
突然背後からの風が首筋を撫でていく。目の前に海があるのに風は後ろから吹くのか。勝手に海側から風が吹くと思い込んでいた。まあ、その日によって違うだろうけど。後からの風ってことは北風か。冷たいのも頷ける。
改めて犬岩を眺めてふと思う。この岩に犬の霊がいるだろうか。集中してみてもそれらしき気配は感じない。なんとはなしに海上に目を向けると風車が目に留まる。あんなところにも風車がある。あれも風力発電なのだろうか。卓史はそのまま右の景色へと目線をずらしていくと遠くに屏風ヶ浦が見えた。眺めているとなんだか感傷的になってしまう。ここで義経は物思いに耽ったのだろうか。ふとそんなことも思ってしまった。
あれ、大翔はどこだ。繋いでいたはずの手に大翔の手はなかった。いつの間にか手を放してしまったらしい。なぜ気づかなかったのだろう。あたりを見回してみると浜辺になっているところに大翔がいた。しかも犬と一緒に。あれは柴犬か。着物姿の女性もいる。んっ、着物。なんとなく場違いな気もするが普段着が着物という人もいるだろう。そう思ったのだが次見たときには普通の洋服だった。
あれ、なんで。白昼夢でも見ていたのだろうか。それとも、何かの霊現象か。
「若丸、すまない」
微かに謝辞が耳に届き首を傾げる。今のは、大翔の声か。大翔の声のようで違うようでもあった。やけに大人っぽい声に感じられた。
あれ、何をしているのだろう。大翔は大の字になって砂浜に寝てしまった。いや、倒れたのか。
卓史はハッとして急いで大翔のもとに駆け寄った。
「大翔」
目を閉じたまま返事をしない大翔。
最初のコメントを投稿しよう!