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若丸が狸だというのも本当かもしれない。犬に化けていたってことかもしれない。けど、何のために。犬岩の若丸になりたかったとか。ならば静はなぜ現れた。大翔と本当に関わりがあるのだろうか。卓史は首を捻り誰もいない浜辺をみつめる。細波の音だけが鼓膜を震わせた。
早く帰ろう。風が強くなってきた。
「おじちゃん」
「おっ、目が覚めたか。大丈夫か」
「うん」
「そうか、なら早く帰ってあったまろうな」
大翔を下ろして手を繋ぐ。
「ねぇ、ぼく……。なんだか怖くて悲しい夢を見ちゃった」
「怖くて、悲しい夢?」
大翔は小さく頷き、振り返り犬岩をじっとみつめていた。
いったいどんな夢を見たのだろう。大翔は黙り込んでしまい何も話そうとはしなかった。なんとなく訊いてはいけない気がして無言で歩き続けた。浜辺で出会った静と若丸に関係があるのだろうか。怪しくはあったが幽霊だとしても悪霊ではないだろう。『守りたい』との言葉が妙に心に残っている。守護霊ではないとは思うが、嘘ではないと思えた。自分の直感を信じよう。
大翔はなにやら腹をさすりながら歩いている。顔色もよくない。
「どうした、腹でも痛いのか」
大翔はかぶりを振るだけだった。寒いところにいたから、冷えて腹が痛くなってしまったのかもしれない。
「大翔、おんぶしてやるよ」
「うん」
卓史は大翔を背負って姉の家に向かった。しばらくすると大翔の寝息が聞こえてきた。どうやら寝てしまったらしい。
登り坂のうえ子供を背負っている。ちょっと辛い。参ったな。
ちょっと休みたい気分だ。
そうだ、渡海神社に寄って行こう。けど座れるところがあっただろうか。
ふと狛犬の言葉が脳裏に蘇る。あの言葉は何を意味するのか訊かなくては。
***
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