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疲れた。やっと渡海神社に着いた。
狛犬と目が合い、「ちょっと訊きたいことがあるんだけどいいだろうか」と話しかけた。
「その子供のことであろう」
流石、神を見守る眷属だ。話が早い。狛犬は続けて話し出す。
「その子供はどうやら源義経の生まれ変わりのようだな。おそらく腹に薄っすらと赤く傷痕のようなものがあるだろう」
源義経だって。そんなまさか。んっ、待てよ。そうだとすると辻褄が合うのではないか。
若丸が大翔を呼んだのも頷ける。なら、あの静という女性は。卓史が質問する前にまたしても狛犬が口を開く。心を読まれているのか。
「犬岩であった者は静御前だな。義経の妾だ。慕っておるのだろう。狸は義経というよりも源九郎狐に憧れているだけだろう。義経の生まれ変わりといれば同じようになれると思っているのだろう」
なるほど。そう思いつつも、いまいち呑み込めていない。歴史は苦手だ。義経は知っているがそのまわりの存在まではよくわからない。静御前か。けど、悪い霊とかではなさそうだということだけははっきりした。静の守りたいという言葉は本心なのだろう。
「そういうことなら、このまま放っておいても問題ないってことなんでしょうか」
「うむ、どうであろう。不穏な動きも感じる。その子供から目を離さないほうがよいかもしれぬぞ」
「不穏な動きですか」
「まあ、家から出なければ問題なさそうだがな。神の守りがその子供の家にはあるようだからな」
「確かに」
「問題と思えるものは前世の記憶やもしれぬ。一時的に蘇っただけならばよいが。その子供の腹を見せてはくれぬか」
「腹を?」
「そうだ、さっき話した痕を確認したい」
卓史は大翔をどうにか下ろして前に抱え込み膝上に乗せた。すると、自然と服がめくれ上がり腹にある赤い傷が露わになった。確かに傷痕のようなものがあった。
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