只今、不思議捜査中~東のはずれで犬が鳴く~

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「よかったです。追いかけて来て正解でした」  静が微笑みを浮かべてその場に蹲る。 「おい、大丈夫か」 「はい、ちょっと力を使い過ぎたようです。神様にも感謝しなくてはいけませんね。こんなことになるなんて、わたくしたちと関わったせいかもしれませんね」  静はそんな言葉を残して徐々に透き通っていき消えてしまった。  若丸も消えてしまうのかと思ったが、足元からじっとこっちをみつめていた。 「おいらは一緒に行く。早くいこう。狸といえどもちょっとやそっとの悪霊など近づけやしないからな。頼朝だって負ける気がしない」  頼朝だって。 「早く帰れ」  突然、背後から狛犬の怒声が飛んできた。  卓史は思わず「はい」と叫び大翔を抱えて駆け出した。若丸も一緒に横を駆けていた。 「おじちゃん」 「おっ、気がついたか」 「ぼく、どうしたの」 「大丈夫だ。ちょっと疲れただけだ。きっとな」  姉には適当なことを言って誤魔化そう。いや、無理かな。嘘が下手だからな。大翔の協力が必要だ。 「うん、そうだね」 「大翔、ひとりで悩みを抱え込むなよ。おじちゃんは狛犬からだいたいのこと聞いてから知っているからな」 「うん」 「で、おまえの母ちゃんには義経のこと伏せておくからな。特に何もなかったってことにするつもりだ。心配かけたくないだろう。それでいいよな」 「うん。ぼくもそれが良いと思う。でもさ、ぼくちょっと怖い」 「心配するな。おまえは守られている。大丈夫だ」  大翔は絶対に守る。若丸もいるし、きっと大丈夫だ。静もきっと来てくれるはずだ。 ***
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