13人が本棚に入れています
本棚に追加
月の光に照らされて武士の顔がはっきりと確認できた。だが、頼朝の顔を知らない。本当に本人なのかわからない。恨みがましい瞳をしている。怨霊と化してしまったのか。
禍々しい気が纏わりついている。あんな奴、退治なんかできない。若丸があっさりやられてしまったのに、自分に何ができるのだろうか。いくら霊感が強くたって無理だ。素人が見様見真似で怨霊を鎮めることなどできるはずがない。逆に余計な霊を呼び寄せてしまうこともある。下手なことはできない。なら、どうする。
卓史は息を殺して様子を窺った。
ガシャリ、ガシャリ。
甲冑が耳障りな音をさせているが、よく見ると門柱からまったく進んでいないことがわかった。そうか、入れないのか。この家は神棚の心地よい気が流れている。怨霊と化した頼朝は近づけないってことだ。神様が守ってくれている。なら、家にいれば大丈夫ってことだ。
けど、このままでいいのだろうか。頼朝はここに義経がいるとわかっている。だとしたら、毎夜来るのではないか。いや、以前から毎夜来ていたのだろう。だから見えなくても姉は異変を感じていたのだろう。霊感の強い大翔はかなり影響を受けているのかもしれない。けど、大翔が起きてくる気配はない。
卓史は大翔のいる二階の子供部屋へと足を向けた。
部屋に入るとベッドに大翔の姿がない。どこだ。
「大翔、いないのか」
返事はない。まさか、外にいってしまったなんてことはないよな。窓から下を見遣ると頼朝の霊が「出て来い」と怒鳴っている。
あっ、目が合ってしまった。すぐに視線を逸らして窓から離れる。
鬼の形相とはこのことだ。
そのとき微かに声がした。ベッドと壁の間からだ。
最初のコメントを投稿しよう!