13人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
時計の針が午前二時を回ったころ、ガシャリ、ガシャリとまた甲冑の嫌な音が響き渡ってきた。来たか。
静と若丸と相談して頼朝を成仏させようとなった。それが一番いい策だ。大翔には部屋から出ないように言い聞かせている。
「出て来い、義経」
地の底から響いてくるような声音が窓ガラスを震わせた。
「義経、義経、いるのはわかっているぞ。兄のもとへ来い。無視するのか。返事もしてくれぬのか。おまえが恨めしい。おまえの才能が恨めしい。おまえの存在が恨めしい」
なんだかだんだん声色が変わってきたような。怒りというよりも寂し気な感じに映るのは気のせいだろうか。
「出て来い。せめて兄に顔を見せてくれ。出てこぬのか。そういう考えなら、皆殺しにするぞ」
窓から様子を窺っていた卓史に鋭い視線を投げつけてきた。頼朝の睨みだけで心臓が止まりそうになった。蛇に睨まれた蛙の気持ちがわかったような気がする。どうにか視線を外すことが出来たがそのまま目が合っていたらどうなっていたのやら。目力だけで殺されていたかもしれない。
そんなことよりも手筈通りうまくいくだろうか。静の帰りが遅い。家の中に入ってくることはできないとわかっていてもどうにも落ち着かない。静が北条政子を連れてくることになっている。頼朝は妻の政子の言葉ならきっと聞き入れてくれるはずだ。
ガシャリ、ガシャリ。
本当に耳障りな音だ。
「若丸、何か他に手はないのか。連れてこられなかったときのことも考えたほうがいいかもしれない」
「うーん、そうだな」
若丸は視線を四方八方に巡らせて唸っている。策はなさそうだ。
最初のコメントを投稿しよう!