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「おじちゃん」
「大翔、どうした」
「ぼくが話をするよ」
突然の申し出に一瞬思考が停止してしまったが「それはダメだ」とかぶりを振る。大翔が言ったら殺されかねない。危険だ。というか昨日は隠れて震えていたのにどうして急にそんなことを考えたのだろう。
「ぼく、大丈夫だよ」
「いやいや、危ないからここにいろ」
「でもね。頼朝さんがなんだか可哀想になっちゃったの」
可哀想……。
確かに、どこか胸の奥に悲しみのような寂しさのような何かがあるような。けど、義経の死に頼朝が関わったことは紛れもない事実だ。そのはずだ。真実は違うのだろうか。史実には語られていない何かが隠されているのだろうか。
外からは「義経、いるのだろう。出て来い」と叫んでいる。頼朝は殺しに来たわけではないのだろうか。話し合いに来たってことはないのだろうか。それとも謝罪。すぐにその考えを否定した。あの凄みのある目は話し合いをしに来たとは思えない。日本刀を振り回しはじめていた。空を斬るその姿は鬼人にも映る。
「大翔、やっぱりここにいたほうがいい。もうすぐ北条政子を連れて静が帰ってくるはずだ。それでうまくいく」
卓史はそう大翔に伝えたものの本当にうまくいくのか不安を感じていた。
「ぼく、頼朝さんに焼鮭を食べさせたい」
「えっ、焼鮭」
「うん、頼朝さんは好きなんだよ。焼鮭を食べればきっと笑顔になるよ。だから、鮭を焼いて」
そうなのか。大翔には義経の記憶があるからわかるのか。でも、笑顔になるだろうか。そう簡単にはいかないように思えるけど。子供の考えることだな。
「いいアイデアかも」
若丸がひとりで頷いている。本当にいいアイデアだろうかと首を捻ったが、もしかしたら奇策になりえるかもとも思えた。
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