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「好きなんでしょう。食べて」
大翔の手が震えていた。卓史は大翔の手を支えるように「焼鮭です。どうぞ」と促した。大翔が勇気を出しているのに自分が逃げるわけにはいかない。大丈夫だ、なんとかなる。
頼朝の眉間の皺が消えてじっと焼鮭をみつめている。若丸は大翔の足下に寄り添って頼朝と大翔を交互に目を向けていた。何が起きても大丈夫なようにそうしているのだろう。
果たして頼朝はどうでるだろうか。
じっと黙ったまま頼朝は動こうとしない。
「いったいあなたは何をしているのです」
凛とした声が頼朝の背後からした。
その声に後ろを見た頼朝が「なぜ、ここに」と驚きの声をあげていた。
「あなたがいつまでも義経に執着しているからですよ」
「な、なに」
「まったく、あなたも本当は義経の死に苦しんでいたのでしょう。罪悪感でいっぱいだったのでしょう。正直になりなさい」
北条政子の言葉は的を射ていたのだろう。頼朝の目に涙が光っていた。先程までの威圧感が薄れている気がした。
「焼鮭が冷めちゃうよ。食べてよ。好きなんでしょ」
大翔がまた一歩前に出る。
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