只今、不思議捜査中~東のはずれで犬が鳴く~

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 おっ、海が見えてきた。  もうじき犬吠埼だ。  青い空、碧い海、その狭間の水平線。景色だけで頬が緩む。ちょっと風が強いのか波が岩に当たって波飛沫を立てている。空に浮かぶ雲も心持ち動きが速い気がする。外は寒いだろうか。そう思いつつも、君ヶ浜にある無料駐車場に車を止めて浜辺へと足を運ぶ。勢いよく風が頬を撫でて身体をブルッと震わせる。車に戻ろうか。いや、せっかく来たのだから歩こう。灯台はもう少し先だが歩きたい気分だ。本当にそうなのか。お腹のぽっこり具合が気になって歩こうと思ったのではないのか。自問自答するが、答えは霧の中へ消えていく。自分でもよくわからない。そんなことよりも景色を楽しもう。少しくらいの寒さは気にするな。気合を入れて歩き出す。歩いていると思ったほど寒くはない気もする。凍えるほどじゃない。寒いというよりも心地よい涼しさだ。大丈夫だ。  海に顔を向けて立ち止まると頬を撫でていく風がやはりひんやりする。けど海風は気持ちいい。磯の香りが海に来たと実感させてくれる。白い灯台のほうへ目を向けると灯台に向かう道に霧状になった飛沫が飛んでいるのが目に映る。自然が作り出すミストシャワーってところだろうか。マイナスイオン効果がありそうだ。でも髪がべとつくかも。それよりも身体が冷えてしまうかもしれない。やっぱり海は夏に来るべきだ。  連休のせいか灯台の上から望む人が数人見える。灯台から見る景色は綺麗だろうなと思うが、灯台に上るつもりはない。なぜかと訊ねられたら、絶対に息切れしてしまうからと答えるだろう。それに高いところはもっと風が強いだろう。それならのんびり海を眺めて散歩したほうがいい。少しは腹の出っ張りも引っ込むだろう。いや、たまに歩くくらいじゃ無理か。痩せたいのなら灯台を上れともう一人の自分が一喝した気がした。  そんな声は無視だ。
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