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「遅い」
姉の家に着くなりまたしても怒鳴られた。いや、怒っているわけじゃない。声が大きいだけだ。顔を見ればわかる。笑顔だ。けど、なんとなくその笑顔が怖い気もする。そんなこと言ったらどうなるかわからないけど。いや、想像はつく。訳の分からない怒りの言葉が永遠と続くだろう。それって自分が悪いのかと思われる罵声に付き合わされるのはごめんだ。
そんなことよりも昼時に来てしまってよかったのだろうか。昼飯を食べてから来ようと思っていたのに。
「あっ、いらっしゃい」
姉の旦那の祐介が顔を出す。なんとなく陽だまりにやってきたようで暖かくなった気がした。気のせいだろうけど、姉の旦那はそんな空気を纏っている。
「すみません、昼時に迷惑じゃなかったですか」
「そんなことないですよ。私はちょっと用事があって出掛けるけど、ごゆっくり」
祐介はお辞儀をして出掛けて行った。本当に用事があったのだろうか。姉にどこかへ行っていてなんて追い出されたのではないかと勘繰ってしまう。見るからに人の良さそうな人だから文句も言えないのだろう。いや、嫌だとさえ思っていないのかも。怒ったところを見たことないから。あの姉と一緒にいられるくらいだから、いい人だと太鼓判を押せる。実家にいたときはイライラしっぱなしだったからな。
あっ、だからと言って姉が悪い人ってわけじゃない。本人は気づいていないだろうけど、かなり天然ボケなところがある。それだけだ。
「今、嫌なこと考えていなかった」
「えっ、別に」
妙に勘が鋭いところがあったのを忘れていた。気をつけなきゃ。苦笑いを浮かべつつ頭を掻いた。
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