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リフォームされてしまった家の物程立派ではないが、子供の頃から見慣れている鬼瓦が、俺を諫めるように見ている気がする。その視線が痛くて黒い何かがいる方向から離れると、刺すような視線はじわりと和らぎ、やがて何を感じることもなくなった。
あの黒いモノには近づくな、ということなのか?
鬼瓦から感じた視線をそう解釈し、俺はその場を後にした。
…あれから半年程か経ったが、洋風になってしまったあの家は、リフォームからわずか半年しか経過していないとは思えないくらい寂れた外観になった。
近所の噂では、ここで暮らす老夫婦の息子一家の身の上には色々な不幸が相次いでいるらしい。
そして俺はというと、あの家の側を通るたび、黒い何かを見たり足が動かなくなったりしたが、その都度強い視線に助けられてきた。
ちなみに、俺を助けてくれる視線の送り主は、近所の家々に構えられた鬼瓦達だった。
これは俺の推測だけれど、あの土地には何か良くないモノがいて、とりわけ立派だったあの鬼瓦が中心となってそれを封じ込めていたのではないだろうか。でも家が取り壊されると共に鬼瓦も捨てられて、封じられていた何かは家に害を及ぼし始めた。それを近所の家の鬼瓦達が、精一杯、あの家の敷地とせいぜい周辺だけに押し留めているのではないだろうか。
祖父母に聞いていも、かつてあそこに住んでいた老夫婦がどこの施設へ追いやられてしまったのかは判らず、この憶測が正しいのかどうかの答えは判らず終いだ。
それでも日に日にさびれていくあの洋風の家を見るたび、俺は、自分の考えが正しいのだろうと痛感している。
もし、あの家の住人のように、家を洋風にリフォームしたいと考える人が近所に出たり、台風などで鬼瓦が破損してしまったら、ここいら一帯はどうなってしまうのか。
憶測はできても、それで何をどうすることもできない俺は、周辺の鬼瓦がずっとこのまま無事であるようにと、ただただ祈るばかりだ。
鬼瓦…完
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