鬼瓦

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鬼瓦

 近所に純和風の大きな家があった。  そこで暮らす老夫婦とウチの祖父母が友達で、俺も幼い頃から何度となくその家を訪ねたことがあるが、築年数こそ経過していたが、古民家な佇まいは荒れた様子もなくて、子供ながらに素敵な家だと思っていた。  特に気に入っていたのが鬼瓦で、屋根のてっぺんに据えられた大きな鬼の顔の瓦は、子供心に、怖くも憧れの代物だった。  いかめしいが、厄除けとして、家や地域一帯を守ってくれるという鬼瓦。その話を祖父母や老夫婦から聞かされ、大切にして行かなければと子供なりに思っていたが、最近になってその家は飾り気のない洋風の家にリフォームされた。  聞けば、遠くで暮らしていた老夫婦の息子夫婦が戻って来て、反対を押し切って家をリフォームしてしまったのだという。しかもそれに怒こった老夫婦を、息子夫婦は揃って施設へ入れてしまったとか。  随分ひどい話だなと、洋風になった新築の家の側を通った時に思ったのだが、その時に、妙に背筋がぞわぞわした。  上手くは言い表せないが、何だか四方八方から誰かに見られているようなとても嫌な感覚で、さっさとその場を離れようとしたのだが、何故か足が動かない。  ここにいたくない。早くこの場を立ち去りたい。そう思うのだがろくに動けず、それでもじりじりともがいていたら、ふいに少しだけ体が軽くなった。  いつも程の軽快さはないが、一応足は動く。この場から離れられる。  必死の思いで数歩進むとさらに体の軽さが増す。その勢いでいつも通りに動ける位置まで進み、俺は背後を振り返った。  特に何もない。さっき感じた視線も今はもう感じない。ただ、俺をではなく、リフォームで洋風になったあの家を誰かが見ているような気がする。それが気になり、ぐるりと四方を見渡した際、近くの電線や塀の上に何か黒いモノがいる気がした。  鳥や猫のようには見えないが、いったいあれは何だろう。  気になってそちらへ近づこうとした時、背後に鋭い視線を感じ、俺はそちらを振り返った。  視線の先に自分の家が見えた。いや、正確には家の屋根にある鬼瓦が見えた。
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