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”職業、イケメン”。大阪の観光名所と歓楽街の間にある大きな道に、これまた大きな看板に書かれていた。ホストクラブの看板だ。
なんだ、そのふざけたキャッチコピーは、と思いながらも、イケメンであるが故にお金を稼ぐことができるのなら、あながちそのキャッチコピーは間違いではないのかもしれない。
しかしながら、そんな職業を認めたくない男は盛大に舌打ちをした。流れるように歩く通行人に軽蔑の目を向けられるも、男は全く気にせず、駅に向かって歩き出す。
中途半端に伸びた髭に、細くて悪い目つき。くたびれた安物のコートを羽織り、ぼろぼろになった靴を地面に擦るように、大腕を振って歩く。
勝手に避けていく通行人を横目に、男は先ほどの看板に写っていた写真の男をぼんやりと思い出す。
女のように大きく丸い目、明るい髪を遊ばせ、堂々とカメラ目線で写っていた。
女々しい顔をしやがって、どうせ整形だろう、と心の中で悪態をつく。女にだらしがなく、将来だってろくなもんじゃない。男は、思いつくだけの悪態を並べていく。
そうすると、心が軽くなった気がした。それは、言うだけ言ってすっきりした、というよりも、自身と比べ虚しくなった、と言った具合だ。
もし、俺があの顔に生まれていたならば。
気持ちの悪い妄想をする。ついに頭が沸いたか、と自身を卑下した。どうしようもない焦がれを可笑しく思う。男は無意識のうちに口角が上がっていた。そのことに気づき、慌てて口元を隠す。
だが、もしそうだったらば、もっとましな人生が送れたはずだ。
男は変わらない歩幅で、少しだけ背を丸めた。
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