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必死で言葉を紡いだ。
「そうか、君だったんだな」
納得したような呟き声。
「え、なにが?」
おれは聞き返す。
「リッカがバイトしてるって聞いておかしいと思ったんだ。しかも引っ越し屋だなんて。あれだけ生活が厳しいときでも音楽以外のことはしないし、できない、って言ってたやつだから」
君を養うためだったんだな、とシゲは憤ったように言った。
「誰に聞いたの、リッカのこと」
「昔事務所が一緒だったやつだよ。俺たちのバンドのライバルだった。タチアオイのほうが目をかけられてたのに、急に活動休止みたいなことになったから、恨まれてるのかな。リッカが引っ越し屋でバイトしてたぞって聞かされて、まさかそんなわけないだろうと思って様子を見に来たんだけど、本当だったどころか行方がわからなくなってるなんて」
シゲは困惑したように言い、おれに問いかけた。
「そもそも、君は誰なんだ? さすがに隠し子なんて年齢には見えないし、かといってあいつが他人の面倒を見るようなやつには思えないし。……もしかして、あの時のトラブル絡みなのか? もしかして、音楽業界に戻れないよう圧力かけられてるとか……」
「知らないよ」
おれは答えた。
「リッカはおれを助けてくれたんだ。身寄りも、記憶もないって言ったおれを、何にも良いことなんてないだろうに、連れ帰って家に置いてくれた」
本当にリッカは優しい。猫のおれと人間のおれ、二度も命を救ってくれるだなんて。その一方で、自分は。
「それよりトラブルってなんのことだよ。リッカはどうして音楽をやめたんだ? シゲはどうして、リッカと一緒にいないんだ」
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