Ⅲ ジャコ

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 台所の戸棚。洗面台の下の棚。  床に転がった箱の中。押入れの中。  どこもかしこも大したものは置いていない。ようやく、押入れの上のほうに、物の入った紙袋が置いてあるのを発見した。  触ってみると、ずっしりしている。おまけに、奥を覗くと何袋もあった。  押入れの上の段にのぼり、落とさないよう気をつけながら、引っ張り出して畳の上に置いた。中身を出してみる。  平べったいプラスチックケースがいくつも入っている。テレビゲームのソフトによく似ているが、パッケージのデザインが違う。写真の上に文字が書いてあった。 「……たちあおい?」  そっとケースを開いてみる。中身もゲームとそっくりの丸い円盤だ。  テレビの電源をオンにした。ゲームの蓋を開け、 入っていたものを取り出して、今見つけた円盤を入れた。  かしゃ、うぃーん、という機械音が鳴って、ディスクが読み込まれているのがわかる。画面の中では意味のなさそうな丸や四角がぐるぐると回っている。  その画面が、すうっと暗くなった。  始まったのは、ゲームではなく歌だった。  歌声の主が誰なのか、最初はわからなかった。機械を通すと声が変わるし、何より喉をからして歌っているのなんて聞いたことがない。
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