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でも、しだいにわかった。これはリッカだ。リッカの歌だ。
たとえ声だけだって、ずっと姿を見ていない彼に会えたうれしさを噛み締めているうちに、歌は終わってしまった。慌てずコントローラーを手元に引き寄せて、もう一度再生する。今度も変わらない、力強い歌声が聞こえてきた。
リッカが生きていた。リッカはこうやって、生きていた。
何度も繰り返し再生するうちに、歌以外の部分も聞こえてくる。正確なリズムを刻むドラム。華やかなリフを奏でるギター。曲を支えながら縦横無尽に弦を鳴らすベース。
一つ、新しい音が聞こえるようになるごとに、一つ、おれの記憶が蘇る。
おれは昔、この家で彼と暮らしていた。当時はもう一人、ドラムを演奏する同居人がいた。
二人はバンドを組んでいて、朝から晩まで音楽に明け暮れていた。おれはそんな彼の歌を聞くのが好きだった。
おれがこの家で暮らしていたのは、死にそうだったところをリッカに助けられたからだ。当時のおれは、猫だった。
一緒に暮らすうちに年を取って寿命が近くなった。しかしおれは天寿をまっとうすることなく死んだ。
ピンチに陥ったリッカを救って。
……いや、救ってなどいない。
おれはリッカを助けたつもりだった。けれど、実際には助けることなんてできてやしなかったのだ。
紙袋の中をもう一度覗き込む。他にも色んなパッケージのケースが入っていた。
中には、リッカの写真が使われているものもあった。種類の違うものを並べると、全部で七枚になった。おれは端からそれを聞いていった。
どの歌も、耳から聞こえるのに、なぜか震えるのは心だった。じっと聞いていたいのに、足踏みしたくて走り出したくてしょうがなくなった。
リッカの歌声が、おれの魂を震わせた。
……いや、おれだけじゃない。この声は世界を動かす声だった。
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