Ⅲ ジャコ

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 耳も頭も痛くなるまで、タチアオイの曲を聞いた。ごろりと畳の上で丸くなる。  決めたことがあった。  リッカにもう一度会って伝えるのだ、「生きろ」と。  リッカを助けたつもりで「殺して」いたことをおれは知らなかった。そもそも、死んだままなら知るすべもなかった。しかし、おれは人間として再び生まれた。  生まれ変わりも輪廻転生も信じていない。だとしたら、自分が今人間なのは、彼を救いきれなかったからだ、と思った。  伝えるべきことがある。しかし、リッカは消えてしまった。  記憶は取り戻したけれど、彼の居場所はわからない。  ほかの三人は何をしているんだろう。シゲもどこに行った? なぜリッカは音楽をやっていないんだろう。おれは考えた。  パソコンを引き寄せる。リッカに教えてもらって、使い方は覚えた。 「タチアオイ」と検索して、最初に出てきたのは「活動休止」の文字だった。  メンバーの現在を調べる。リッカとハチは消息不明、となっていた。トンは音楽の仕事をしている。シゲは新しいバンドを組んでいた。  ――シゲ。  一緒に住んでいたくらいだから、一番リッカのことに詳しいはずだ。なんとか、会えないだろうか。  シゲのバンドについて調べると、地方を拠点にしているが最近人気が出てきて、東京でもライブの予定があるらしい。日程を見ると明日だった。  まずシゲに会う、とおれは決めた。  再び検索用の画面を開いて、今度はライブが行われる会場の場所を調べ始めた。
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