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おれは、人間として生きることの厳しさを痛感していた。
あれやこれやと試行錯誤して、シゲのバンドがライブを行う『クラブ・ポーラーベア』の住所は紙にメモした。
ライブの予定は夜だったから、道に迷ったらいけないと、午後の早いうちに家を出た。しかし道のりは多難だった。
「すみません、『クラブ・ポーラーベア』に行きたいんですけど」
駅についたはいいものの、どの電車に乗ればいいのかわからない。目についた人に尋ねると怪訝な顔をされ「駅員に聞いたらどうですか」と言われてしまった。
制服を着た人がなかなか見つからず、ようやく見つけて尋ねると、その人にも首を傾げられた。
「うちは鉄道会社だから、どこの駅に行きたいのかだったら教えられますけどねえ……」
「駅?」
首をかしげてもリッカと違ってそれ以上会話が進まない。しかし、このままではリッカに……の前に、シゲにすら会えない。
なんとか、手書きのメモを見せることを思いつくと、住所から行き方を教えてもらえた。けれど、乗り換えが複雑だと説明された。
「とりあえず、二番線から乗って、この駅まで行ってください。そこでこの紙を見せてまた聞けばいいから」
「ありがとうございます」
教えてもらえてよかったが、一事が万事この調子だったので、ライブハウスの最寄り駅にたどり着くころにはもう日が暮れ始めていた。
人間は大変だ。しかし猫のままならここまでもたどり着けなかっただろう。
前向きに考えて、おれは行きかう人ごみの中の一人に道を聞いた。
「あの、『クラブ・ポーラーベア』に行きたいんですけど……」
スーツを着た男が面倒くさそうに言う。
「そこに交番があるだろ」
答えてくれただけ親切だったのかもしれない。最初に声をかけた人は、こちらを向いてすらくれなかった。
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